今日、来年どんぐり達が入る(予定の)小学校の面接があった。
どんぐり達の性格を良くご存知の方々には容易に想像がつくとは思うが、それはそれは大事件であった。
当地の公立小学校は来年度(9月~)の新入生の入学手続きが始まっており、今週が面接WEEKなのである。
学校自体、初めてではなく一度オープンデーに下見に行っており、幼稚園の仲間も行くと知って「ここが僕らの学校」モードになっていたものの、背の高い女の先生二人の面接官を前にたじたじとなることは目に見えていた。
まずは戦略を誤った。かゆを連れて母親が先に入り、えゆと父親が外で順番を待っていたところ、随分早く終わったようですぐにドアが開いて二人が出てきた。後で聞いてわかったのだが、面接官の話に全く反応を示さないどころか、ちぢこまって母親の体にしがみついて離れない、今にもワンワンと泣き出しそうという始末であったという。全くお話にならず、すぐにバトンタッチ、というわけだ。
続いてえゆと父親が呼ばれて入っていった。やはり全身に緊張感が漲っているのが見て取れ、今にくず折れるのではと冷や冷やしつつも冷静を保ち二人で面接官の前に席についた。
椅子のはじっこに腰掛け(いつでも逃げ出せるようにという防衛本能からこんな落ち着かない座り方をするのだと思う)、案の定じっと俯いて面接官と目を合わせまい、という態度を示す息子を横に父親は黙ったまま、口出しもせずに成り行きを彼に完全に任せることにした。その雰囲気を察知してか(この父親は助けてくれないぞ、もしかしたら僕と同じように緊張してモノが言えないのかも!というあきらめというか絶望感と、部屋の中では一人ぼっちではなく物理的に肉親が横に座っているという錯覚から来る安心感が混ざった感触か)、面接官の質問をとりあえず聞いている様子。面接官も状況を察知してか、必要以上ににこやかに話かけてきてくれている。しかもその一人はポーランド語が出来るらしく、時々彼に馴染みのある言葉で助け舟まで出してくれている。いいぞ、この流れに乗って一気に面接をクリアしようではないか、と一人父親が内心盛り上がっているのをよそに、隣の息子は黙々と与えられた課題に取り組み始めていた。
まずは8個の四角い箱が目の前に置かれ、「ふってごらんなさい、音がするから」と言われるがまま一つずつ振っていった(いいぞ、その調子!)。これら質問は全てドイツ語である。続いて「同じ音がする箱が二つペアになっているから、どれだかわかるかな?」と聞かれ、少し迷った挙句、徐にまた最初の箱から一つずつ振っている。確かに微妙に音に違いがあり、「ガラガラ」とか「ジャラジャラ」「シャカシャカ」という音が出るのもあれば、殆ど音をたてない箱もある。気づくと息子は決心がついたのかさっさと選り分けて二つずつのペアを見事に揃えていくではないか。「すごーい、よく出来たわねー」というお褒めの言葉もさずかり、まだ心を開かないぞとばかりに険しい顔を見せつつ手で抑えている口の袂にふと不敵な笑みを浮かべているのを父親の鋭い目は逃さなかった。またしも心の中で「いいぞその調子!」と叫びつつ、さりげに横から膝元をたたいて「よしよしよくやった」のメッセージを送る(まるで犬のようである)。
続いて、サイコロの目が並んだカードを渡され「これいくつかな?数は知っているかな?」という質問。知っているどころか、この連中は二桁の足し算に無謀にもチャレンジする(そういうゲームがあるので)ほどの数字マニアなのだが、やはりドイツ語では全く反応を示そうとしない。
面接官もこれにはあきらめ、次の質問に。今度は少し難しいぞ。8つの絵柄のカードを並べられ、「この中で同じ韻をふむ言葉があるから選んでみて」というリクエスト。さあ、どうする。こいつらドイツ語を全く喋らないのに単語の区別が果たしてつくのだろうか、と疑問に思っていたところ、何とHaus-Maus、Hose-Doseという風に韻を踏むドイツ語の単語を絵柄ごとに見事に揃えてみせた。いつのまに、どこで言葉を覚えたのか?
次に、少しフィジカルな問題。縄を床に横たえて先生が「こんな風にジャンプできるかな~」と実演してみせる。これは真似すればいいだけの話なのでお安い御用と思ったのか早速に立ち上がり、縄をつたって左右にぴょんぴょんと華麗に飛び跳ねて見せた。続いて「後ろ向きに行けるかなー」という課題なのだが「へん、何だこんな子供だまし」とばかりにすいすいとバックしてみせた。もうここまでくれば緊張で凍りついた体も幾分か解凍していてだいぶリラックスしているようだ。かなり褒めちぎられ、おだてられているので余計に。
最後に、紙を渡されて「自分の名前を書いてごらん」と言われ、たどたどしくもちゃんと読める字で名前を書いて見せた。
そして今度はその紙を手にして写真撮影(入学申込書を記入したのでその写真をその場で撮ってもらうことになっていた)。一応カメラレンズに視線を向けて(!奇跡)。
これで面接はクリアしたも当然。おっと、相棒はどうしたのだろう、と思ったところで早速「兄弟の方がまだテスト完了していないのでもう一度入室してもらいましょう」というので外に呼びに行った。このさい、さっきのように交代するのではなく、従前の戦略の誤りの反省から今度は我々(合格組)も同席して4人でのぞむことにした。
さて、かゆのほうはやはりママの手を握ったまま話さず、どうしたものかと思いやられたが、えゆと同じように(いつの間にか彼は自由自在に部屋の中で体を動かし気づくとかゆの向かいの席に一人で、しかも面接官の隣に座っていた。兄弟に対する優越感の現われか?)課題に取り組むことになった(これは所謂追試扱いか)。
何のことはない、えゆほどの滑らかさはなく(緊張度がかゆの方が上のようだ)、ぎごちないものの、一つずつ課題をクリアにしていった。サイコロの目の数字を言うことはついになかったが。最後の課題である自分の名前を書き終えると写真撮影となった。かゆの場合、ついにカメラレンズに目を向けることはなく、下唇を前に出してむすーっとしたものすごく近寄りがたく機嫌の悪い表情を崩すことはなかったが(その顔の滑稽さに一同爆笑の渦)、ともあれ面接はなごやかに終了した。
先生方からは「彼らの場合、相当きずなが固くまだ周りとの間の敷居が高いこともあり、最初のうちは同じクラスに入れたほうが良い」というコメントあり、同意。 元々一人ずつ人格を形成することを目標に別々のクラスにと思っていたが、この方が自然であろう。なお、知能面では全く問題なく、入学の基準はクリアできていると。ホッと一安心。
誤解を招きやすい彼らではあるが、この学校の先生方はどうやら本質を見抜いていただいたらしい。そのうち、心を開くでしょうと気長に構えてくれている寛容さがこちらにとっても安心である。多分学校の選択は、間違っていないと思う。
帰り際に今日の面接クリアのご褒美として、何やら玩具を買ってもらうことになったようである。兄弟分をアシストして大手柄をたてたえゆには大目の予算があてがわれたのは言うまでもない。
やれやれ。
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